*** ひとりあそび

(中庭占い:愛操作3回以上)

 ……うん。そうね。最近真面目にお仕事に励んでましたからね。めっきりご無沙汰でしたもんね。
 お疲れ俺。そのせいだ、そうに違いない。きっと。多分。
 魔物のお気に召されちゃうほど大それたことはしてないし、かと言って神様の御宣託を受けられるような、真っ当な人間でもないのは、よーくわかってる。いやそもそもこんな御宣託寄越す神様が居てたまるか。
 そう、だからこれは気の迷い。ただの夢。
 こういう夢って何かの理想像でも出てくんの?それとも、単にここんとこ一番見慣れた奴の顔を借りてるとか?理想像にしちゃちょっと貧相な気もするから、後者かな。俺もヤキ回りすぎかね。
 まあでも、そうだよな、あいつが女選んだらこんな感じになるな。痩せっぽっちだから、急にそんなメリハリ利いた体になる訳ない。ちょっと力を込めたら折れちまいそうなぐらい、手首も腰も足首も指も脚も細っこい。
 その細い、けどちゃんと柔らかい熱い体が、全力で、必死に俺にしがみついてくる。
 ……しかしホントに、よく出来てんなこの夢。
 あったかいし肝心なトコはちゃんと熱いし、肉と汗の甘い匂いも、その内側のどろどろに甘ったるい匂いも、それと、ずるずるぬるぬる滑る肌の感触とか。あと気持ちいいし。
 むちゃくちゃ、気持ちいいし。
 どこか冷めた思考とは裏腹に、俺の腕は衝動に忠実に、しなやかだけど頼りない線を描く腰を抱き寄せる。絡んでくる腿の外側を爪の先でじっくり刺激してやると、呼吸が乱れた。ぱさりと髪を揺らして、首がぐいと反らされる。晒された白い喉に歯を立てると、震える喉の振動が直接頭の芯まで届いて、眩暈がする。
 あー…。ヤバい。でもイくと目が覚めるパターンだよな、これ。
 ふつふつと腹の奥が煮えてるけど、まだ、も、ちょっと、中に、居たい。
 勝手に動きそうになる自分の体をどうにか抑えて、赤く染まった耳朶の裏の至極柔らかな部分を丹念に舐めて、噛む。隙間なく密着した肌が擦れ合う感触に満足して、掌全体で背を丁寧に撫であげてやると、ひくりと体の奥を震わせて、焦点もおぼろげな瞳が俺の方を向いた。睫の先から零れた涙を舌先で掬って、とろんと蕩けた目を覗き込む。ふわりと嬉しそうに崩れた表情は、どうしようもなく女の顔だ。
 そっか。こいつも、こんな顔するようになるのかね。
 上も下もなんかもうよくわかんないし、ここが何処でどういう状況でこうなってんのかがさっぱり抜け落ちてるあたりは、きちんと夢だ。
 夢なのに、なぁ。

  ……ね、そんなに、俺のこと好き?

 何故だかそこだけ所在なげに俺の肩先に触れていた手の、指先にだけ力が篭もって、濡れた肌の上をずるりと滑った。

   すき。

 胸の奥から零れる空気で乾いている唇を舐めて濡らしてやると、歯の先でやんわりと舌を食まれた。ねだられるままに唇を塞いで、ぬるい口内をかき回す。甘い水の味がする。

   だいすき。

 何処もかしこも何もかも、甘い。
 熱を孕んだ声も、熱に浮された視線も。

 ……気の迷い。ただの夢。
 夢なら、ま、いっか。正直に言っても。
 いいよな。夢だし。

 知ってるよ。
 お前がどんな目で俺を見てるか、俺はちゃんと知ってるよ。


   ……ごめんな、レハト。


 悲しそうに歪んだ顔を見たくなくて、汗を含んだ前髪を梳いて、額の徴に音を立てて口付けた。
 夢なら夢らしく、無粋なものは全部消え失せろってんだ。
 醒めたその先がちらついて、睦言ひとつも吐けやしない。

初出 2010.02.06
加筆 2010.02.18


わははははは。ばーかばーかばーか。